吾妻川方面には、兜造りの農家が目立つ。
兜造りというのは、屋根の平側か妻側を全体的に切り上げて、2階や3階に採光できるようにした農家の形式を言う。左写真の農家は寄棟屋根の妻側を切り上げた「妻兜」という形式の屋根だ。
ただ、左写真のような寄棟の兜屋根は赤城山北側(利根地方)にも多いような気がする。
吾妻に兜造りが目立つ、というイメージをすり込んでいるのは左写真の農家ではないだろうか。県道35号線からよく見え、とても目を引く農家だ。
母屋は茅葺きの平兜造り。蚕室は切妻の2階建てで渡り廊下で母屋とつながっている。
この茅葺き屋根が葺替えられたのは、私がまだ建物の見方などよくわからない年齢だったが、この道を通るときには子供心にも「吾妻の養蚕農家はすごいものだなあ」と感心していた。
おそらくこのクラスの屋根を1回葺き替えるだけで、建売住宅が1軒建つくらいのお金がかかるのではないか。
切妻屋根の3階建ての農家。現在はトタン葺きだが、瓦から葺き替えたという印象はなく、もしかしたら初めから鉄板葺きだったかもしれないと思わせる軽やかな屋根だ。
妻側の屋根の軒下部分に梁と束を細かく格子状に配置してあるのは、デザインを見せるための飾りだ。
寄棟、煙出し付き、平兜の農家。
吾妻川南岸からみた風景は、吾妻川北岸の山並みを借景にしているように感じる場所が多い。
もちろん、吾妻の農家がすべて兜造りというわけではなく、赤城型民家や榛名型民家もある。
赤城型民家とは、左写真のように屋根の平側の中央に部分的に切り込みを入れた平屋で、屋根裏を2階として使った構造の民家を言う。
考えようによっては、これを2階建てにしたら自然と平兜屋根になると言ってもいいかもしれない。
切妻の大型農家。
桁行10間の蚕室にさらに住居部分を継ぎ足したようになっている。
養蚕全盛期には、母屋全体を蚕室にしたのだろう。
入母屋、平兜の農家。
屋根の傾斜が急で、背が高い。屋根内に3階があってもおかしくない高さだ。
同じく、入母屋、平兜の農家。先ほどの農家と似た印象だ。同じ大工が建てたのかもしれない。
2階部分の横差しの材を細かく配置したデザインが美しい。
大棟が切妻でその下にすぐ寄棟屋根の庇をめぐらせた農家。
いや、寄棟屋根の上に巨大な切り妻の煙出しを載せた、と解釈すべきか?
この家も3階がありそう。
桁行10間で、外観からして完全に3階建て。
実際にみるとものすごい迫力。どれだけたくさんのカイコを飼ったのか。
もしかしたら、内部には4階があるかもしれない。
こうして見てみると、吾妻で撮影した大型農家には煙出し(カイコのための換気塔)がないものが多いようだ。
壮蚕(4齢、5齢)飼育には通気が重要視されるが、春や晩秋の飼育での保温のほうが優先されているのかもしれない。
県道沿いの兜造り、出桁造りの民家。
出桁造りとは、1階の桁行よりも桁を長くして、2階の面積を1階よりも広くした民家の造り。
養蚕農家だとは思うが、街道筋にある出桁造りの民家は、どちらかといえば旅籠の風情を感じさせる。
(2008年05月01日訪問)