小野稚蚕人工飼料飼育センターの施設

群馬県西の養蚕を支える稚蚕飼育施設。

(群馬県富岡市相野田)

写真

以前、この飼育所を外から見て「たぶん使われていないのではないかと思う」と書いたことがある。しかし実際にはその当時群馬県で5箇所稼働していたJAの飼育所(大胡、月夜野、群馬町、小野、安中)のひとつであり現役の施設であった。人工飼料飼育所は、防疫的にしっかりしているため、建物の外から見える範囲では稼働しているかどうかの判断は不可能なのだと、あとになって知った。

その後、群馬町、月夜野、安中の飼育所の飼育所が廃止され、2013年現在、JAの飼育所は大胡とここだけが残っている。

2012年9月に、晩秋蚕の配蚕を見学させてもらった。「配蚕(はいさん)」とは、稚蚕飼育所で育てた蚕を農家に出荷する作業のことで、飼育所が最も忙しくなる日なのだが、無理をお願いした。レポートは2ページ構成で、このページでは主に施設を紹介し、次のページで配蚕の作業を紹介する。

写真
写真

まず、上図をみてほしい。きちんと測量したわけではないので、多少はおかしなところもあるとは思うが、これが飼育所の平面図になる。飼育室は1室で、安中の1/3の規模の施設だ。

作業者は左下の玄関部分から、赤線にしたがって進み、主に作業室という部屋で働く。以後の説明もだいたいその流れに沿って紹介していこうと思う。

玄関の上に定礎があり、昭和60年に建てられたことがわかる。

写真

玄関を入るとここで靴をぬぎ、スリッパに履き替える。

正面奥はトイレ、右側は事務室になっている。

写真

事務室。机は4脚ある。現在、飼育時に常勤で働くJA職員はセンター長ひとりだけだ。餌の搬入、消毒、配蚕などの男手が必要な作業のときに応援の職員が来ているようだ。実際の飼育作業はその期間だけ女性のパートタイマーを雇って行うが、パートの人は事務室は使わず、研修室で休憩する。

奥には畳敷きの宿直室。8畳で押入れはなさそう。飼育室の温度管理などは自動化されているし、給餌は昼間にのみ行うので、現在ここで宿直することはないと思う。

写真

玄関を入った奥にあるトイレ。男女共用。

写真

トイレから右のほうへ廊下が折れ曲がっていて、その突き当たりは更衣室になっている。

写真の右に見えるドアが女性用、写真手前方向が男性用。たぶん、部屋の面積は男女同じになっていると思われる。JAの稚蚕飼育業務は、ほとんどが女性のパートで成り立っているので、男性更衣室はそれほど広くなくてもよいのだが・・・。

写真

更衣室は3室続きになっていて、最初の部屋は脱衣室。

私も、ここで下着姿になって、カメラとレコーダーだけを持って次の部屋へ進む。

写真

2部屋目はシャワー室。

ここで手と足を消毒する。

写真

3部屋目は着衣室。

ここに上下の白衣、帽子、長靴が当番によって準備されている。

見学者の私の分も用意してもらった。

写真

更衣室を出たところの廊下。

突き当たりはトイレ、左奥は研修室、左手前は洗濯室になっている。

写真

室内のトイレも男女共用だった。

写真

研修室。

センター長が1日の作業手順などを説明するブリーフィングルームとしての機能と、作業者が休憩や昼食をとるための食堂としての機能がある。

写真

洗濯室。

写真

洗濯室の奥は乾燥室になっている。

写真

この廊下の奥が作業室になっているのだが、この通路がかなり狭い。ここを通過するのは人間だけで、コンテナなどの搬入は別の入口があるとはいえ、ちょっと平面設計で無理がでてしまった場所のように見えた。

通路の床には消毒槽があって、ここを通過するときに長靴の底を消毒し、洗面台に溜まった消毒液で手も消毒してから作業に臨む。消毒薬はケミクロンという薬品を溶かした塩素系消毒液で、養蚕専用ではなく農機具などの消毒に一般的に使われているものだった。

写真

狭い通路を進むと、廊下が広くなっている。この場所を「作業前室」と呼ぶことにする。清掃用具を一時的に置いたり、給餌装置などを使わないときに片づけて乾燥させるために使われている。

この作業前室からは、倉庫とコンテナ保管庫へ入ることができる。

写真

倉庫。

細長い部屋で、薬品や蚕具などが置かれていた。

この倉庫の奥には非常扉があり、火事などの際には作業者の脱出ルートにもなる。もっとも、通路には荷物などが置かれているので避難路としてはいまひとつであろう。

写真

コンテナ保管庫。

群馬県のJAの稚蚕はこのコンテナに入れられて配蚕される。コンテナひとつは稚蚕の取引単位でいう「0.5箱」(群馬県での0.5箱は蚕種7.5グラム分で1.5万頭)である。

コンテナは後日JAが農家から回収し、清掃消毒してこの保管庫に保管されている。

写真

作業室。

ここで稚蚕に餌を与えたり、飼育面積を拡げるなどの世話をする。実際の稚蚕は右の壁の奥にある部屋にしまわれていて、コンベアに載って取り出される。

稚蚕は高温、高湿度で飼育するため、人間の作業場所としては不適当だ。そのため、作業室はエアコンで涼しくしてあり、作業しやすいようになっている。

手前にある制御盤で、コンベアをコントロールする。

写真

飼育室の中も見せてもらえた。

緑色の網が「蚕箔(さんぱく)」と呼ばれる飼育トレーだ。立体駐車場のような構造で、1,000枚の蚕箔がぎっしりと格納されている。

コンベアはひと続きになっているので、任意の1枚を取り出すことはできない。前進後退ができるとはいえ、計画的に作業をしなければならない。

写真

作業室から配蚕口方向を見たところ。

配蚕用の扉は2つあるが、右側しか使っていない。左側の扉は制御盤の奥のほうにあり、どう考えても動線がおかしい。設計ミスではないか。

写真

作業室の配蚕口側の扉をあけたところ。

ここには狭い廊下があり、左の扉を開ければ外部になる。左の扉が開け放たれるのは配蚕のときだけだ。

廊下の奥には、飼料の搬入口と飼料の保冷庫がある。

写真

配蚕口を外から見たところ。

写真

廊下の奥に進んでみる。

写真

廊下の突き当たりには、飼料の搬入口がある。

外部とは消毒薬を満たしたトラップで隔離されていて、作業者はこのガラス越しに飼料を受け取る。

写真

搬入口の横には人工飼料用の保冷庫がある。

茶色いものが「くわのはな」という人工飼料。ポリ袋にはいっていて、湿った羊羹状の餌だ。

写真

これで飼育所の設備は一通り紹介した。

機械室は中を見れなかったが、飼育室と玄関の間にあると思われる。

続いて、配蚕の作業の様子を紹介しよう。

(2012年09月10日訪問)

ワンダーJAPON(3) (日本で唯一の「異空間」旅行マガジン!)

大型本 – 2021/7/9
standards (編集)
伝説のサブカル誌「ワンダーJAPAN」が名前をわずかに変え、装いを新たに登場しました。本書は第3号となります。今号では、京都、奈良を含めた「大阪」のDEEPスポットを特集しました!

amazon.co.jp