人は自分の人生のせいぜい50年くらいの経験で、山や川や自然を見ようとする。川が氾濫すれば「この土地に50年以上住んでいるが、こんな災害は初めてだ。地球全体がおかしくなっているのではないか。」などと口にする。コンピュータで制御された温室か箱庭のように、自然が毎年毎年寸分も狂わずに繰り返すものだと思いがちだ。
だが、不変に見える山や川でさえ、動いたり形を変えたりしているのだということが、地質を観察するとリアルに感じ取ることができる。群馬県の活火山を見ただけでも、現代文明がたまたま数千年続く凪(なぎ)の中にいるだけだということはわかるだろう。
地質について観賞できる物件は少なくとも1万年以上の単位で作られたものになるので、古建築などをみるのとは違った興味深さがある。見れば見るほど「つくづく人間の一生なんてちっぽけなものだな」という物証を突きつけられるように感じるところがおもしろい。
さて、地質を学習するための国際的な公園認定に「ジオパーク」というものがある。日本では2012年現在、5箇所が「世界ジオパーク」に認定されている。その次点として15箇所の「日本ジオパーク」があり、下仁田は日本ジオパークに認定されている。
その下仁田の地質遺産の中でも、目玉のひとつとなるのがこの跡倉破砕帯だ。場所は以前紹介した青倉神社のすぐ前の河原で、簡単に見学できるようになっている。
破砕帯というのは、断層が動くときにその摩擦で岩石が砕けたものをいう。つまりは、断層そのものと言ってもいい。跡倉破砕帯は「根無し山(クリッペ)」という地質に由来する断層だ。根無し山とは、山を作る岩石が下部の地質と違う性質を持っているもので、山体がどこからから動いてきてでき上がったものだとされている。
つまり、左写真の赤い部分から上は、この地域の地質とは異なる性質のものであり、ここから上の地形が横に動いて来たものだということだ。
このサイトでは広島県の岩屋権現で似たよう物件を紹介しているが、跡倉クリッペははるかに大規模で、これ自体が日本の地質百選に選ばれている。
文化財的な物件とはいえ、実際に触って、岩石がボロボロになっていることを確かめることができるのがうれしい。破砕帯の露頭としては、かなりわかりやすいものだと思う。
そのうち柵でもできて触れなくなるときが来るかもしれないが。できれば、破砕帯がどのようなものなのか実感できるように、いつまでもこのままであってほしい。
なお、この破砕帯の前の青倉川には、フェンスターという地質もあると看板に書いてあったがどこなのかははっきりとわからなかった。
砂岩の層の下部にある結晶片岩の層が部分的に露出している地層ということなのだが、左写真のあたりがそうであろうか。
(2011年07月09日訪問)