前橋市の第一中学校と、前橋女子高等学校のちょうど中間あたりに、
ここは明治38年創業の贄田製糸所である。
現在は、シルクの下着やスーツなどの製造販売をする小売業に業態を転換している。
1980年ごろまで座繰り糸を製造した製糸工場であった。製糸業が衰退するなかで、民芸色の強い座繰り糸に着目して生き残りを図り、市内の座繰製糸の工場としてはおそらく最後まで操業した工場だったと思われる。
昭和にはまだこの一帯は水田や養鯉場が続く田園地帯だったが、撚糸工場もぽつぽつとあったし、第一中学校の東の現在スイミングスクールとスーパーマーケットがある場所は亀山製糸の乾繭場もあった。前橋で製糸というと、広瀬川の北岸のイメージがあるが、JR両毛線の南にも絹産業はあったのである。
贄田シルクの取り扱い商品の販売先はデパートや物産展会場が主だ。この店舗は本社のような扱いではあるが、店内にはさまざまなシルク製品があふれている。
扱っている商品はすべてが国産というわけではない。外国産絹糸から作られた商品が主ではあるが、値打ち以上の掘り出しもの的な商品もある。特にガウンや背広などは他店ではなかなか手に取れない商品であり、そうしたシルクを探している人はぜひ訪れてみるとよいだろう。
富岡製糸場の世界遺産登録によって、いまごろ富岡市にはこんな絹雑貨を扱う店が雨後の筍のごとく増えているはずだが、ここ贄田シルクはそうしたにわかな店舗とは年期が違うのである。
前橋の糸の歴史とともに歩み続け、現代まで生き残った本当にシルクの良さを知り抜いた歴史の生き証人のごとき店主が経営する店なのだ。
店内には贄田シルクがまだ製糸工場だったころに作った絹糸が小枠に巻かれたまま置かれていた。
座繰り糸は内職で作らせただけでなく、店舗裏の工場では従業員が座繰器に向かって糸取りをしていた。撚糸機もあり、製糸と撚糸の両方をこなす工場だった。
これが店舗裏の工場。ちょっと見ただけでは、それとはわからない。最後の撚糸工場はだいたいこんなふうな外観だったのだろう。
おそらくまだ撚糸機の機械などは残っていると思われるが、残念ながら見学はできなかった。
(2013年01月27日訪問)