小豆島へ来た目的は、事前にわかっていたいくつかの洞窟寺院を見るためである。スケジュールは2泊3日だけれど、初日はフェリーで島に入り、帰路もフェリーとなるから、半日+1日+半日で正味2日の時間しかない。その時間の中で、地形的に何かありそうな山寺をいくつか行程に追加し、あとは成り行きで寺社に立ち寄っていくのだから、あまり時間の余裕はない。島四国の88ヶ寺をこの日程ですべて見ることなど到底無理な話である。
これから紹介する観音寺は小豆島八十八ヶ所霊場の80番札所だが、もともとは立ち寄る予定はなかった。
だが県道を走っていると山際に小型の大仏が見えた。それだけの理由でこの寺に立ち寄ることにしたのだった。
これが大仏の弘法大師像。
といっても、取り立ててビックリするような大きさではない。基壇2m、蓮台2m、座像2m、合計して6mほどのぎりぎりな大仏である。
県道からはこの大仏の背中が見える。
境内は石垣の段の上にあり白壁が囲んでいる。
石垣の一部分は無縁仏の塚になっていた。ただ、この寺の境内には墓地は見当たらなかったので、これらの墓石は、どこか離れたところにある霊園から運ばれて来たものではないかと思われる。
境内に入ってみよう。
山門は四脚門。山門をくぐると左側に鐘堂がある。
大仏は山門をくぐって右手にある。
基壇の内部には入ることができる。
大仏の隣りには鎮守社。
本堂はRC造で八棟造り。
その左側には庫裏がある。
一応、本堂の中で拝礼していたらお寺の人に招かれ、本堂の奥のほうへ連れていかれた。
そこは信徒休憩所のような場所だった。
ここでうどんを食べさせてくれるという。時間はもう15時半、昼食の時刻でもない。
席につくと、すぐに讃岐うどんが配膳された。もちろん無料で。
自分は別に熱心な仏教徒でもないしお遍路さんでもない。どちらかといえば興味本位、物見遊山の徒であり、寺からすればありがたくもない存在であろう。そんな私に、どうしてうどんが?
呆気にとられたまま、美味しくうどんをいただいた。
あとで表に出てから、この寺のうどんのいわれが書かれていた。
この寺は短い期間に3度火事を出し廃寺も免れない状況だったのを、お遍路さんたちの助けで本堂を再建できたという。時が経ち代替わりしてもその感謝を忘れないようにするため、それ以来、すべての参拝者にうどんをふるまうことを寺の戒めとしたのだという。
これを知って胸が詰まってしまった。うどんの原価なんて50円くらいのものかもしれない。でもこの寺はその1杯の手間によって、何も事情を知らない私にまで感謝の何たるかを学ばせてくれたのだ。これは一生記憶にのこる仏教体験だった。
(2006年10月08日訪問)