きょうは南のほうへ来たついでに、夕飯のおかずにしらすを買って帰ろうと思って和田島に来ている。
和田島はちりめんじゃこが名産の漁港。鳥のくちばしのような形の「
砂嘴を形成している砂丘の湾に流れ込む太田川の河港部分が漁港の中心部で、川から引き込んだ船だまりもある。
その船だまりから少し上流に
四輪車がすれ違えないような小さな橋だ。おそらく古道に掛けられた古い橋なのだろう。
港湾建設による計画的改良なのか、津波などによる破壊の跡なのかわからないが、和田島の街道は所々途切れていて、明確には辿れない。
でも四ツ井利橋の西詰めのあたりには庚申塔があり、古い街道の風情が感じられる。
さて、魚を買った店でこのあたりに映画館がなかったか尋ねてみた。
するとこの四ツ井利橋の東詰めに「和田島劇場」という映画館があったとのこと。こんな漁村にも映画館があったんだ、と驚かずにはいられない。和田島の港には繁華街のような部分はまったくなく、港湾施設が点々と並んでいるだけだからだ。
和田島劇場があったのは、この倉庫があるあたりだという。「劇場」という名前の映画館は、芝居小屋が起源の場合が多い。「劇」をする「場」なのだ。
和田島劇場ができたのは戦前で、廃業したのは昭和30年代だったという。でもそれを教えてくれた老婦人の話では、和田島劇場で美智子さまご成婚のニュース映画を観たそうなので、廃業したの少なくとも昭和34年以降であろう。
昔は娯楽もなかったので、今のようにたまに映画に行くというのではなく、毎日同じ映画を上映しているのに若者のたまり場のようになっていたという。
映画だけでなく、地芝居、人形浄瑠璃の上演があったり、小学校の発表会にも使われたそうだ。『義経千本桜』の芝居を観た思い出を、きのうのことのように語る老婦人の話を聞いていると、まるで夢のようにその様子が浮かんでくるのだった。
(2006年12月23日訪問)