阿波劇場

2階桟敷のある芝居小屋だったのではないか。

(徳島県阿波市市場町市場町筋)

市場町は、吉野川北岸を東西に横切る川北街道と撫養街道、それと、阿讃山脈を南北につらぬく津田川島街道、その3つの街道の交点に自然発生的に生まれた町だ。

町の成り立ちからすれば県西の商都脇町と似ているが、津田川島街道は峠が山深く、往来も少なかったためか町の規模は小さく、街道にそって商店が並んでいるという程度だ。

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だがその商店街の雰囲気から、かつて映画館があったであろうと想像するのは難しくない。

町の人に尋ねてみると、この場所に阿波劇場という映画館があったという。

「劇場」の名前から、その発祥は芝居小屋だったのだろう。

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現在その場所は刺繍工場になっているが、建物は現存している。

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ファサードは直線的なビルディングのような看板建築になっているが、側面を見ると2階に採光窓が並んでいる木造建築である。

この位置に窓があるということは、おそらく2階桟敷のある吹き抜けの芝居小屋だったのだろうと推測される。

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映画館の左隣には工場が増築されているが、ここはあまり古い建物ではなさそう。

映画館の右側の壁面は下屋が出ていて、通路か何かになっているようだが、左側壁面は建て増しした関係からか、下屋がなく、新しい建物と密着しているようだ。

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80歳過ぎの老婦人に阿波劇場の思い出を訊いた。小学生のころ日開谷川上流の村に住んでいて、(家族と?)歩きでよく映画を観に来ていたという。客席は座席がない平場で、座布団を敷いて座った。冬には火鉢のレンタルがあったという。

その頃はまだ「映画」ではなく「活動写真」と言っていたそうだ。

ご婦人の年齢からすると、戦前の話である。この映画館は少なくとも戦前には存在していたことになる。

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中央の柱がない、大スパンの芝居小屋建築は倉庫や工場に転用しやすかったのだろう。

そのため姿を変え、現代まで残ることができた。

(2007年01月07日訪問)