塚原のから風呂

常時営業している石風呂って全国でここしかないのではないか。

(香川県さぬき市昭和)

九州旅行から徳島市の自宅に戻り、10日間の旅の疲れもあって一日ゆっくり休憩をとる。翌日は町内の挨拶回りを終え午後から暇になった。

半日でいまさら観光というのでもないから、夕食を食べて温泉へでも入ろうと香川県にやってきた。目的地は鶏料理の一鶴と仏生山温泉なのだが、せっかくだからさぬき市の「から風呂」に立ち寄って行くことにした。

新婚旅行の大分では2日間、石風呂巡りをして妻にむちゃくちゃ不評だった原因は、そもそも自分が見ているものが何なのかわかっていなかったというのもあったと思う。そこで今さらなのだけれど、現役の石風呂を見学することにしたのだ。

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さぬき平野のとあるため池のほとりにその石風呂はある。ご当地では「から風呂」と呼んでいる。

伝説によれば行基によって伝えられたといわれていて、江戸時代の書物に登場するというのでかなり歴史のある石風呂なのだ。

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これがその外観。

大分で見た石風呂の多くは、川の近くの崖に掘られた洞窟だったが、実際に営業可能な石風呂はだいたいが覆屋の中にあるのだ。

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きょうは木曜日だが営業していた。

この石風呂は個人が経営してきたが長尾町に寄付され、行基苑という老人福祉センターとして運営されてきた。ところが赤字運営だったため行政によっていったん閉鎖された。

その後、地域で保存会が発足し、最近再オープンしたという歴史をもっている。

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浴室というか(むろ)は2室あり、それぞれ10時と15時に火を焚く。

10時に焚いた側の室は午後には温度が下がるので低温サウナになり、新たに炊いた室は高温サウナとして使われる。

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ちょうど、15時の窯焚きの最中だった。

すごい迫力。

この薪が熾になったら、塩水で濡れたむしろを敷いていったん扉を閉じて1時間ほど蒸らす。入浴するときに室内は150度にもなっているという。

石風呂は壁も焼けていて裸で入るとやけどする恐れがあるため、綿入れなどを着たうえで毛布をかぶって入浴する。毛布はから風呂側から貸し出される。

この日は常連さんと思われるお客さんが一人いたが、フード付きのスエットの上下を着用していた。

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私たちは準備もないので入浴できなかったが、管理人のおじさんが中を見せてくれた。

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これが室の中。

高温になるから電灯などはなく真っ暗。

この中でじっと座って汗を流すのだ。

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真っ暗ではなにも見えないのでストロボで撮影。

5~6人は入れるだろうか。

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1回の入浴は5分程度で、休憩所でクールダウンして水分補給をして、再び入浴を繰り返す。

なお、飲み物は客が自分で持ってこなければならない。

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大分で見た辻河原の石風呂の休憩室を彷彿とさせる、囲炉裏のある板の間。

この休憩室は、これぞ石風呂の文化! という感じのすばらしい空間だ。

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石風呂の天井はこんな感じになっている。

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使用済みのこも。

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平日なので客が少なかったのかもしれないが、なにせスーパー銭湯のように大人数が利用できる施設ではないから黒字経営するのはむずかしそうな気がする。

だが文化的に貴重なものであり、行政の支援で末長く残してほしいものだと思う。

石風呂はこれまで紹介してきた山口県大分県の瀬戸内沿いに多いといわれているが、あまり知られていないことだが徳島県にもいくつもの遺構がある。

香川県、愛媛県でもちゃんと探したら10~20ヶ所くらいの石風呂が見つかるのではないかという気もするが、四国を離れるいまとなってはもうその機会はなさそうだ。

最後に営業している石風呂を見られ、私の石風呂巡りのよい締めくくりになった。

(2012年03月29日訪問)