高知・宮崎・大分を9日間かけて巡った新婚旅行も終わり、四国へ戻ってきた。愛媛県では愛媛蚕種さんに結婚の挨拶をしてから少しだけ今治へ。こうして実質10日の旅を経て自宅のある徳島市へ帰り着いた。
長旅の疲れもあり1日休息。そして明日には引越業者が来るという旅立ちの前日、最後に行っておきたかったのは高松の仏生山温泉だった。
徳島に10年間住んだが、四国にはまだまだ行かなければならない場所もたくさん残っていた。たぶん四国で見るべきものの1割も見ていないだろう。でも、いざその土地をはなれるというときに、慌ててみてももう手遅れだということは、前回、横浜を発ったときに身にしみている。
だから最後の時間で頭に浮かんだのは、四国最強の癒やしスポット仏生山温泉なのである。仕事で行き詰まったり残業が続いて肉体的につらいとき、いつも生き返らせてくれた場所である。骨付鶏料理の一鶴で夕食をとり、仏生山温泉の源泉で長湯すれば、明日からの引越しのための英気もみなぎるというものだ。
翌日、妻は2台ある自家用車の片方を自走で運ぶため一足先に群馬へ向かった。引越しの作業は荷物の梱包と積み込みで2日に及んだ。らくらくパックというプロのサービスを使ったので、私は指ひとつ動かすことはなく指示を出すだけ。それでも諸々の手続きが終わったときにはもう30日の夜になっていた。
徳島の家を出て、10年間通った吉野川の土手の通勤路を走る。見慣れた風景だが、この道を戻っても我が家はもうないのだ。徳島市に別れを告げるように吉野川の鉄橋を渡ると、河口ではシラスウナギ漁が始まっていた。夜の川面を照らす漁船の、まるで星雲のようないさり火のはかなく美しい光が私が四国で見た最後の風景となったのだった。