鮎喰川にはいくつもの沈下橋や流れ橋があって、自然の川に寄り添った暮らしの風景を見ることができる。私の家も鮎喰川の下流にあるので一番身近な山村でもあり、何度も写真を撮りに訪れている。
鮎喰川中流の先行谷区間で、県道20号線の阿川トンネルのところをトンネルを通らずに旧道に入ると、道ばたに索道がある。
鮎喰川の対岸の一軒家、小川家の私設索道だ。
主索が2本あり、それぞれに搬器が吊られている。
つまり搬器が2台。
曳索はエンドレスラインで、全周の反対の位置に搬器が繋がれている。
つまりは旅客ロープウェイのように、2台の搬器がそれぞれ反対側の駅に入るようになっているのだ。これを交走式の索道という。
川の対岸は小野という字で、数十年前までは3戸の農家があり、さらに古くは最大5戸の家があったという。
現在は小川家が1軒あるだけだ。
1軒だけになってしまったが、離れ小島のようなところなので隣家に気を使わずにすむから気軽だという。
小野地区では2年前に上流の小野橋南詰めから林道が開通して家まで自動車で行けるようになったが、それまでは流れ橋の五味橋を渡って生活していた。小川家では古くは八朔を、その後スダチを作るようになったが、出荷するには収穫したコンテナを担いで流れ橋を渡らねばならなかった。奥さまも収穫コンテナを一度に2つ背負ったいう。それが大変なのでこの索道を造った。索道を設置するときには村役場に届け出ると補助が出たそうだ。
索道が完成してからは農作物の出荷は楽になったが、それでも鮎喰川が増水し五味橋が通れなくなると、県道の小野橋までウサギミチ(徒歩でしか通れない山道)を歩き、そこから県道を戻って索道の反対側まで荷下ろしに行かねばならなかった。回り道なので2km以上ある。いちいちそれでは大変だから、搬器に人が乗って対岸に行って荷下ろししたこともあったそうだ。
あるとき小川さんを訪ね、索道を見せてもらった。ウインチは家側にある。
主索の長さは地図を見る限り推定160m。
索道を設置したのは35年くらい前で、その後1度ケーブルを張り直したという。
索道を運転してくれることになった。
林道が開通してからは滅多に使わなくなったので、運転は久しぶりだという。
ウインチに通電すると軽やかな回転音が聞こえる。
クラッチを操作すると搬器はかなりのスピードで滑り出していった。
交走式なので中間地点で2台の搬器が擦れ違う。対岸には人がいないが、搬器は曳索に固定されて対称に動くから、戻ってくる搬器を正しく停止させれば対岸でも定位置に搬器が停止する。
対岸までは声が届かないので、作物を積み下ろしするときには主索を叩いて合図していたそうだ。
突然の訪問にもかかわらず、索道を運転していただき、ありがとうございました。
(2004年06月04日訪問)