
湯の峰温泉へやってきた。日本最古の温泉といわれ、熊野詣で湯垢離場として栄えたともいわれる名湯。
現代でも熊野本宮にお参りした人が、流れで立ち寄りたい観光地のひとつだと思う。駐車場が無料でけっこう台数が置けるので足が向きやすい。でも1月上旬の月曜日ということであまり混雑はしていなかった。

旅館は湯の峰川という小さな谷川の両側に並んでいる。

この河原に湯筒(温泉卵製造コーナー)があるのが、風情を高めていると思う。考えたな。こうやって川に近づかなかったら、温泉の排水が流れてるドブ川みたいな印象になってしまうから。

売店で卵が売っているので、手ぶらで来ても温泉卵造りが楽しめる。

こちらが湯筒。

ただ、湯の峰は源泉の温度が高いので、固ゆでや半熟といった普通のゆで卵ができるだけ。
旅館の板前さんが作るような黄身だけが固い温泉卵は基本的に低温調理なのだ。

温泉水くみとり所で飲泉もできる。

公認の飲泉所があるのって、一流の温泉地の証しだと思ってる。源泉を惜しみなく使える湯量があるということだし、泉質に間違いがないという証拠だからだ。
マイ飲泉カップでひと口いただく。

湯の峰温泉を名を高めているのが『小栗判官と照手姫』の物語だ。原典は信仰を広めるための説教節だが、浄瑠璃や芝居などたくさんのメディアで再話されていろいろなバリエーションがある。
町が立てた案内板には比較的堅実なバージョンが書かれていた。

『小栗判官と照手姫』とはおおまか次のような物語だ。
室町時代に小栗
照手姫も裏切りが発覚して追われる身となり、殺されかけたりと苦難の末、小萩と名を変えて岐阜県(大垣付近)の青墓宿で暮らしていた。

いっぽう助重は死んだのち閻魔大王に許されて現世に戻される。しかし身体は腐りかけた死体同様で、目も見えず、耳も聞こえず、しゃべることもできなかった。藤沢の遊行寺の高僧がそれを見つけ熊野の温泉に入らせようと、助重を台車に載せて「この病人の車を少しでも引けば功徳がある」と書き添えた。
東海道を行く人々が車を少しずつ引いたので助重は熊野に近づいていった。途中、大垣から大津までは照手姫もその車を引いたが、変わり果てた姿にそれが助重だとは気づかなかった。しかしもし快癒したら青墓の小萩を訪ねてほしいという言づてを書いて病人に渡した。

助重は1年以上かけて湯の峰温泉に到着し、湯につかったところ熊野権現の加護もあって回復することができた。助重はそのまま京に上り無実を証明して国守に取り立てられ、美濃の国を拝領した。
美濃に着任して青墓宿の小萩を探し出すと、それは照手姫であり、二人はようやく結ばれることができたという。
非常に魅力的な物語だから、熊野の信仰を広める力になったし、湯の峰温泉の名を諸国に知らしめたのだろう。

物語で小栗助重が回復した湯とされるのが、河原にある壺湯である。
現在も入浴できる。

せっかくなので入浴していくことにした。
料金体系は色々ありよくわからない。壺湯の切符で他の風呂にも入れるということだったので、壺湯の切符を購入。

壺湯は1回の利用が30分以内。
利用するときは入口に札をかけておく。
先客は1組だったので、ぶらぶらしていたらすぐに空いた。

札をかけて中に入る。

中はとても狭く、一般家庭のお風呂並み。
戸板には隙間があって外気が入るが、温泉の熱気のため寒いということはなかった。

わずかに硫黄臭がしてお湯は熱め。
もちろん掛け流しだが、源泉の温度を下げるために加水しているようだ。
せっかくの名にし負う名湯だけど、狭いし時間制限もあってトド寝できるような状況でもないし、あまり落ち着かないお風呂だった。

温泉の諸元。
掛け流しで排水は川に排出しているため、石鹸やシャンプーなどは使えない。

壺湯の上にかかる壺湯橋。

壺湯の料金でくすり湯にも入れるというので行ってみた。

中は誰も利用していなかったけれど、いいお湯だ。

こちらは壺湯に比べるとぬるめだけれど、ここもシャンプーが使えなかった。
(2017年01月16日訪問)