出張のついでに帰省。田舎の友達とドライブに出かける。群馬県藤岡市から、埼玉県秩父市を経由して小川町までの小旅行。お目当ては秩父市吉田町石間地区の急傾斜地の集落だ。
私は四国に移り住んで3年。ほうぼうを見て周るうちに吉野川の南岸に点在する急傾斜地集落の風景に興味を持つようになった。もともと民家を見るのは嫌いではなかったのだが、単独の建物としての面白さではなく、急傾斜地集落の景観の美しさと、そこでの生活の厳しさにも強く魅かれるようになっていったのである。そして、なぜこのように厳しい場所に人が住むのか、こうした景観が特定の地域に集中しているのはなぜなのだろうと疑問に思っていたところ、あるときひとつの共通点に気付いた。それは、日本列島の骨格を構成する地質帯のうち、特定の変成岩からなる地質帯にこうした急傾斜の集落が多いということである。
群馬県の南西部の三波川は“三波石"という青緑色をした結晶片岩の庭石を産することで有名だ。
それと同じような地質は、天竜川、紀ノ川、吉野川の南岸を形成して、四国の西部まで続いていて、地質学上は「三波川帯」と呼ばれる。注意してみるとこの地質に沿って急傾斜の集落が点在するのようなのだ。この旅で訪れる埼玉県の石間を起点として、天竜川沿いの長野県飯田市上村、紀ノ川沿いの奈良県十津川村、吉野川沿いの徳島県吉野川市美郷などがそうで、東西に 700km も離れているのに村の風景は驚くほどよく似ている。
このことから私はひとつの仮説を持つに至った。それは、もしかすると日本列島には同じような景観を持つ村が線状に分布していて、それは関東山地から四国山地まで続いているのではないかという仮説である。いずれはこれらの村々を廻って、自分の目と肌でこの仮説を確かめたいと思っているのであるが、今回の小旅行はその始まりでもあるのだ。