以前に長松寺という寺を紹介したとき、佐渡奉行街道について触れたことがある。その長松寺の付近に追分け(街道が分岐するY字路)があって、一方が伊香保温泉方面に通じる街道になる。これを水沢街道という。水澤寺(水沢観音)の参詣道である。
その水沢街道の伊香保までのあいだにある唯一の宿場が上野田だ。
北関東で生まれ育った私は、この風景を見て「おお!けっこう宿場っぽいじゃん?」と思ってしまうのだが、それはもう一種の病気だ。中京や関西方面に残る古い家並から比べるとずいぶん薄味で、これを味わうには相当の心眼が必要だ。
だが、そんな町並みにすら、屋号を書いた看板を掲げて宿場情緒を盛り上げようとするのが上州人のすごいところかも知れない。
その上和田宿の中で異彩を放っているのが、森田本家。
新潟や秋田の大名なみの庄屋にくらべればおとなしいものだが、群馬県の庄屋としては筆頭クラスではないかと思う。
ナマコ壁の長屋門がひときわ目を引く。
立入禁止、と書いてあるわけでもないので、何となく中に入ってみた。
庭はきれいに整備されていて、落ちぶれている感じはまったくない。
「火災予防上、邸内禁煙」と書かれた立て札もあるので見学者を想定しているのは間違いないのだが、個人の所有地のように思えたので、ウロチョロするのはやめておいた。
主屋は、明治時代以後の養蚕農家ふう。築年代は遠目には昭和初期ではないかと思われた。
庭木もよく選定されていてすがすがしい。
主屋の左手には中門と書院がある。
周囲は黒壁とかしぐねのコントラストが美しい。
これを奇麗に保つだけでもかなりのコストがかかるだろう。
ここの石垣は野石の整層積み。
裏手の方に廻ってみると積み方が代わり、乱積みになっている。
石垣職人が時間をかけて技を凝らして積み上げたものなのだろう。まったく緩んでいるところがない。表通りにある整層積みよりもこちらのほうが贅沢に感じる。
さて、この屋敷の入口にはちょっと気になるポイントがある。
左写真の水路の分岐だ。
屋敷の前の道はかなりの傾斜があり、分岐した水路と本流にはすぐに高低差がついていく。
少し先にいってみると、植え込みの中に、石樋(写真中央上)が見えていた。
これは、間違いなく水車の跡であろう。
水路はその後合流して、本流に排水されるようになっている。
水車があったと思われる位置は、土蔵になっていた。
(2008年05月01日訪問)