天久沢馬頭観音の馬場

農耕馬を飾って走らせたという馬場。

(群馬県高崎市吉井町矢田)

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2008年、年末の稚蚕飼育所巡りの2日目。

前日の徹夜明けから夕方までの飼育所巡りでちょっと疲れが出て、2日目は日が高くなってから家を出た。最初の目的地、天久沢馬頭観音に着いたら昼頃になっていた。

ここは、パソコンで地図をだらだら見ていて偶然見つけた場所だ。右上の地図をクリックしてみてほしい。

「これ、草競馬の遺構じゃないの?」

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非常にまれにだが、いまは畑になっている場所に草競馬があったというような話を聞いたこともあるし、神社の近くの道などで流鏑馬でもやったのではないかという感じの場所があったりする。草競馬の遺構は、取り組んだらけっこう面白いのじゃないか、などと思ったりもするのだ。

なので、この日の旅では、初めて草競馬跡を紹介することができるかと、期待が膨らんでいた。

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馬場と思われる場所に行ってみると、中央に観音堂があり、その周りには確かに競馬のコースのようなものがあった。

だが、コースは丘の頂上部分を巻くように作られており、観覧席に相当するものがない。実は、またもや等高線を逆に読み間違えていて、すり鉢状の地形だと思っていたのが、小山だったので拍子抜けしてしまった。

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散歩に来ていた地元の人に聞くと、ここは確かに馬場だったが、草競馬ではなく神馬を走らせる祭事をした場所だということだった。

その頭屋(とうや)(=祭事をまとめる氏子の家)を紹介してもらったので、話を聞きいくことにした。頭屋を勤めていたのは木村家という豪農で、この観音堂の総代を勤めてきた家だ。この地区では頭屋のことを「ヤド」と言うのだそうだ。ヤドは持ち回りではなく、木村家がずっと勤めてきたという。

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運良く、当主の木村マサルさんに会え、話を聞くことができたのだが、この祭礼が盛んだったのは戦前のことらしく、記憶もあいまいであまり詳細なことを聞き出すことができなかった。

この場所は、天久沢陣跡という城跡でもあり、武田信玄が西上州に攻め入ったときに陣を張った跡だと言われていて、その際、名馬「天久(あまく)」が死んでこの地に葬ったというようなことが『箕輪軍記』にある。のちに馬頭観音が建立され、祭礼は天久を慰めるために奉納されるものだという。

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かつての祭礼は、3月18日に行われていた。(現在は祭の形態も変わり、4月第一日曜になっている。)

祭の準備は1週間くらい前から始まり、3頭の馬がこの奉納に使われた。この3頭に選ばれることは村では名誉なことだったという。祭の3日前になると、3頭の馬に載せる農鞍の飾り付け作りが始まる。この飾りは「ジンメ」と言って、鞍から1mほどの青竹を扇状に出して、そこに白い「オンベロ(御幣)」を付けた飾りだったという。青竹が正確に何本ささっていたかは覚えていないそうだ。5本だったかもしれない。

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ジンメの作成には3日必要だったそうだ。鞍はジンメで飾り付けてあるから乗馬することはできず、たづなを持って一緒に馬場を走り抜ける神事だったということだ。ただし手綱を取る人は事前に酒を飲んでおり、馬にも酒を飲ませたので、勢いがついていて迫力があったという。観客はコースの外側を取り巻くようにしてこの神事を見守った。

祭はかつては盛大で、出店もたくさん出たし、高崎や長野からも見物人が訪れたという。戦後も2~3回行われたようだが、農家が馬を飼わなくなったため廃れたらしい。

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祭では馬を競わせることはなかったため、金品を賭けたりする人はいなかっただろうとのことだった。

祭以外では、藤岡のほうから馬を連れてきて走らせた人がいたとか、木村マサルさんもかつて高崎競馬の馬主だったことがあり、自分の馬に乗馬してこの馬場を駆けたことがあるという。

また、高崎競馬の蹄鉄職人がこの近所に住んでいて、馬の調整のために一時期この馬場を使ったこともあったそうだ。

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山頂には、馬頭観音堂があり、祭が盛んだったころは、この中で火を焚いたり、酒盛りをしたそうだ。

残念ながら、草競馬の跡地とは言えないものだったが、面白い話を聞くことができた。この祭、復活させたら面白いのではないだろうか。

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脇障子には絵馬が奉納されていた。

現代では絵馬は五角形の木片に印刷されたものが一般的だが、もとは馬の絵を奉納したものが始まりでもある。

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境内でみかけた石仏。

僧形のようなので地蔵菩薩ではないかと思う。

(2008年12月29日訪問)

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