毎年、11月の上旬にパアン市内の独立記念広場で開催されるカレン民族祭。
カレン州で行われるイベントではもっともにぎやかで楽しい日々。すでに何度も紹介している。
今回は初めてオープニングセレモニーに立ち会った。その様子とカレン州の重要人物についても紹介しよう。
ゲート前には民族衣装を着た女性が並び、要人を迎え入れるための警備が入口を固める。
今年は特別にミャンマー大統領がセレモニーに参列するというのだ。
別会場で大統領のスピーチがあって、そちらの席も手配できていたのだが、駐車場をさがしていて遅刻して入れてもらえず。しかたがないのでメインゲート付近に陣取って大統領の到着を待つ。
ちなみに現在ミャンマーの指導者は実質的にはアウンサンスーチー氏なのだが公式には彼女は外務大臣である。軍事政権時代の末期、総選挙で敗れることを予想していた軍はスーチー氏が大統領になれないよう憲法を改正していたのだ。同時に国会で軍の賛成票がなければ憲法を改正できないようにもして、軍の権力を完全な形で温存した。
現在スーチー氏には国軍に対する人事権がないし、逆に軍は合法的に民主政治を停止できる権限を有している。いまは単に国軍が自発的に彼女に協力しているだけという微妙で不安定な状態なのだ。
したがって、たとえばラカイン州のベンガル人問題(日本のメディアがロヒンギャ難民問題と呼んでいるもの)で欧米諸国がスーチー氏に外交的な圧力をかけて弱らせてみても、彼女が外圧に屈してベンガル人との和平が進むということはまったくなく、逆に軍に利するだけなのである。
日本政府がラカイン州の問題があっても、ミャンマー政府を支持し続けているのはそういう背景がある。
鼓笛隊が到着した。
人だかりの中でノーファインダーの撮影になる。
来た!
赤いカレン風ジャケットを着て、9:1分けバーコードヘアのおじさんがウィンミン大統領。
その右側で大統領に話しかけているツルツルヘアのおじさんは
この2人がにこやかに話す場面は、かなり貴重なショットであろう。
ウィンミン大統領はスーチー氏ひきいる民主政党であるNLDから選出されているので、カレン民族同盟から見れば真の敵であるミャンマー軍とは一応は別の存在。したがって大多数のカレン族はミャンマーの民主化を後押しするために、選挙では自分の民族の政党ではなく、スーチー氏のNLDに投票している。
しかし深いところではNLDと言えどもビルマ族を中心とした政府であり、少数民族からみればビルマ族への不信感がなくなったわけではない。
最近でも中央政府(=NLD)が地方にアウンサン将軍(=スーチー氏の父親でビルマ建国の父とされる政治家)の銅像を建設したり、モーラミャインに新しく建設された橋の名前を「アウンサン将軍橋」したことに対して、少数民族からは強い反発が起きている。
にこやかに接しているとはいえ、政治的には完全に融和しているわけではないのだ。
集合写真。
中段左から2人目、ウィンミン大統領(9:1分けのおじさん)から右側へ、チョチョ大統領夫人、ナンキントゥエミン州首相、ムートゥーセーポーKNU議長。ほかの人は名前は不明。ミャンマーは連邦国家なのでカレン州にも政府があり、その上に中央政府があるという2重の行政構造になっている。ナンキン氏はカレン州の最高責任者で人気女性政治家。軍事政権時代にはスーチー氏らとともに政治犯として投獄された闘士でもある。
最前列を飾る美女たちは、たぶんカレン州に住む各民族の代表。左下のうつむき加減の黒い衣装の女性はカレン族、そこから右方向に、ビルマ族、モン族、シャン族、パオ族、カレン族、カレン族、シャン族である。
見分け方は次のとおり。
カレン族の判別の決め手は上着が貫頭衣であることと頭に鉢巻きみたいなサンドンという布を巻いていること。貫頭衣や鉢巻きの柄は菱形とジグザグ模様が基調。ロンジー(スカート)は横しまと菱形ジグザグ模様がある。ただしロンジーのこうした模様や色使いは近年のもので、かつては横しまと
ビルマ族はロンジーにはS字を連ねたような唐草模様がある。これはビルマ族のロンジーだけの特徴だ。
モン族は必ず赤いロンジーで上着は白。ロンジーには細かい十字のような模様がある。
シャン族は全体的に黄色い衣装で頭にミッキーマウスみたいな飾りをつける。
パオ族は男女とも学生服みたいな紺色の服装で頭にタオルのターバンを巻いている。胸には民族のピンバッジを付けるのも正装みだいだ。
開会式が終わると、各要人たちは州政府の各部局が設置した展示を見てまわった。
KNU議長はにこやかな老人に見えるけれど、若いときはけっこう厳しい感じの人だったとか。
カレン民族同盟は基本的にはカレン民族を守っている勢力だから、議長は人々からも暖かく迎えられている。
いっぽう、大統領夫妻のまわりは人だかりが絶えない。
周囲はSPたちが取り巻いているが、それでもこのくらいの距離に近づくことはできる。
カレン州農業局のブースで、大統領に農産物について説明するナンキン州首相(ピンクの服の女性)。
展示ブースはたくさんあり、全部を真面目に見たら数時間かかってしまいそうだが、大統領はメインゲート付近のいくつかのブースを見ただけで立ち去った。
まあこれだけの人がいる場所で護衛するのも大変なのだろう。
私はいつまでも大統領のあとをついて行ってもしょうがないので、メインゲート付近にあったパオ族の文化を紹介するブースへ立ち寄ることにした。
パオ族は広義にはカレン族の一派。
パオの民族衣装を以前ウィンセイン町のブティックで揃えたのだが、そのとき買い忘れたアイテムがあったのだ。
それはこの女性のマネキンのターバンに刺さっている松ぼっくりみたいな飾り。
パオ族のはじまりは、シャーマンと女のドラゴンの間に生まれた子だという。いわゆる異類婚姻譚である。パオ族の女性が頭に付けるこの飾りは、ドラゴンの角を意味するものなのだ。
「これひとつ下さい!」
そもそも、この角は販売していたものかどうかもよくわからない。でも仕事中で通訳さんがついていたので交渉して売ってもらえることに。
金色と銀色のがあったので、銀色のほうを買うことにした。値段ははっきり覚えていないが、たしか1,000円くらいしたと思う。
(2019年11月07日訪問)