たくみの里・養蚕の家

宿場町に工房を誘致して町おこしをしている。

(群馬県みなかみ町須川)

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たくみの里はみなかみ町が行っている町おこし事業。クラフトマンに須川宿の建物を斡旋して工房を集めた場所だ。

草木染め、七宝焼など手作り体験がいろいろ揃っている。きょうはそのうち知人がやっている工房を訪ね、ついでに、養蚕の家という資料館を見学する。

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宿場町の南の端に無料の駐車場が十分にあるので、そこに車を置き、散策するだけならまったくお金はかからない。

駐車場に大きなガラス張りの車庫みたいなものがある。

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その中には巨大な烏天狗のお面があった。

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旧宿場町の通りは500mほどの家並みが続いていて、体験工房もここに多く集まっている。

宿場町の観光化というと、過剰に古い外観の建物を新築しまくってテーマパークみたいになっているところが多いが、ここはあくまで元宿場町を活用しているだけで人々は普通に暮らしている。景観的には昭和の宿場町の風景といった感じ。

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道の東側には水路が流れている。

これはおそらく元は道の中央に流れていたものを、昭和ごろに片側に寄せたのではないかと思われる。

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水車小屋があったがポンプアップ式。

これも農業体験などに使うのかな。

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内部はひき臼×1、搗き臼×2。

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ここは旧三国街道の宿場だったが、旅籠が軒を接して並んでいるという造りではない。

むしろほとんどの家は養蚕農家だ。

では、明治以前は旅籠や町屋が並んでいたかというと、そうでもない気がする。

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地割りからして、バックヤードが畑地の農家、兼、宿屋のような町並みだったのではないだろうか。

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現在の建物の多くは、推定だけど明治~戦前くらいに建ったものだと思う。

ほとんどが平入りで、妻を街道に向けている。

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出し梁造りの総2階の養蚕農家。

現在、2階は改装されて部屋になっているようだが、もともとは2階は一間の巨大な空間で、主に蚕に繭を作らせるために使われた。

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こちらは大きなヤグラを載せた養蚕農家。

内部は3階になっていて、少しでも多くの蚕を飼おうとしたのだろう。

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こちらは街道から平入りになっている建物。

草木屋(くさきや)」という染め工房が入っている。

天然染料による染め物をよく「草木染め」というが、この言葉は昭和初期に山崎(あきら)という作家が考え出し商標をとったものだった。その子の山崎青樹(せいじゅ)は草木染めの研究と普及につとめ、商標の継続申請を放棄したため、誰でも草木染めという名前を使って商品を作れるようになった。このお店ははその山崎斌のひ孫がやっている正統の草木染め体験施設だ。

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宿場町の家並の途中に、聖ハリストス教会という聖教会の教会堂がある。

須川には明治時代に最初の教会堂が建ったがわずかな期間で焼失。現在の教会堂が復興したのは昭和62年(1987)だという。

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豪華な建物というわけではないが、質素ながらとても雰囲気のある教会堂だ。

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建物にはイコン画があしらわれているが、室内にも10点の障壁画があるという。

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「養蚕の家」という展示会場に行ってみた。

もと幼稚園の居抜きのようだ。

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5月7日だというのに蚕が大きくなっていた。

群馬県の養蚕農家が飼育する春の最初の蚕は、通常は5月10日ごろに孵化するのが一般的なスケジュール。

一代雑種から自家採卵して常温で野放図に孵化させたのかな。蚕の模様や成長度合がバラバラで早いものは5齢の2日目くらいになっている感じ。

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ここには養蚕と製糸の資料が展示されている。

これは利根(まぶし)という名前がついたボール蔟。蚕に繭を作らせるための小部屋だ。穴の深さが繭の長手方向になるため、同じ面積で一般的なボール蔟よりも多くの繭を生産できる。長野県南部でよく見かけ、フカシロー蔟などとも言われる。

原種などの小振りな蚕が営繭しやすいが、繭を押し出すとき繭層の薄い部分(破風)を押すことになり、繭がつぶれやすかったのではないかという気がする。

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カヤを折り曲げて造った蔟。

明治時代のかなりの期間、このタイプの蔟が使われていた。

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選繭台という、繭の検品をする道具。

枠で区切って展示繭を置く場所に使われている。

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この施設の最大の見どころは、部屋の奥に無造作に積まれている製糸道具だ。

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歯車とカムを使った一人用の繰糸機は「座繰器(ざぐりき)」といい、江戸時代末期に群馬県で発明されたといわれている。

この資料館に収蔵されている座繰器は珍品ぞろい。他の博物館では見られないものがあるのだ。

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これはカウンター付きの座繰器。

製糸というのは原料の初期の製造工程だから、はじめから糸の長さを正確に揃える必要はない。その後の撚糸などの行程を経て、決まった長さの製品に加工されていくからだ。

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なのに、この座繰器にはカウンターが付いていている。

想像だが、小さな製糸工場で糸の抜き取り検査のために一定の長さの糸を間違わずに巻き取れるよう改造された座繰器だったのではないかと思う。一般的にはその用途には検尺器という器械があるが、これはその代用品なのではないか。

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歯車や軸がジュラルミン製の座繰器。

ほんと珍品だ。

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これは歯車の構成が一般的な座繰器と違っているタイプ。

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歯車にハンドルが直付けされいる。

確認したわけではないが、通常の座繰器よりも高速回転用の構成になっていように見える。

ただ残念ながら糸枠を通す部分の最後の歯車が、違う部品が取り付けてあり回転できない。

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2つの糸枠を取り付け、かつ、プーリーで動力を伝達するタイプの座繰器。

座繰器というと一般には個人で使う家内制手工業の道具だが、この動力付きの座繰器は玉糸を作る工場に大量に並べられて使われた道具ではないかと思う。

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ダルマ繰糸機と呼ばれる繰糸機。足踏みで枠を回転させ、両手を使って糸を作る2枠の繰糸機。

諏訪地方で開発され広く普及した。これは珍品ではなく、よく見かけるもの。

(2017年05月07日訪問)