午後はまちかど雛めぐりの一会場として料亭に展示されているという裃雛を見学するつもりなのだが、昼どきに訪れるのは迷惑なので、しばらく時間をつぶすことにした。
そこで訪れたのは郷土資料館。
建物は、昭和5年(1930)年に建てられた警察署。
一見すると何だか装飾もなくて手抜きの設計みたいにも見えるけれど、そんなことはなくて、これ「イタリア合理主義様式」だよね。時代的にも。
内部の細部を見てみるとわかるが、決して安普請ではなく、かなり豪華な建物と言っていいと思う。
町なかにあるけれど、ウナギの寝床みたいな地割りだから、建物の裏に無料駐車場がある。
駐車場には掲示板が移築されている。これは元々は表通りにあったのを、歩道の拡幅などでここに移されたのだろう。
ちょっとアールデコ風であり、この掲示板のデザインを見てもこの警察署がそれなりの設計だったことがわかる。掲示板、よく残したな。
正面の入口はたぶん改装されていて、元々は正面方向にも階段があったか、あるいは、掲示板があったと思われる。
歩道を広げる際に切り取られてしまったのだろう。
内部は緩い新古典様式で、柱の意匠なども丁寧な左官仕事がしてある。
1階の展示は民具や出土品など、よくある地方の資料館と変わらない。
一角が企画コーナーなのか、御殿雛が展示されていた。
雛人形で面白いのって、順当に言えばまず御殿雛だよね。
1階はウナギの寝床の奥のほうへ展示室が続いている。
昔の暮らしを再現した部屋のミニチュア模型。
座繰器や糸車はミニチュアではなく実物なので、ちょっとスケールが合ってない。
座繰器はよくある上州式ではなく、奥州式。これは意図的なものなのかな。この地域では奥州式が多いとか。
田んぼの除草機類。
現代でもあまり形が変わっていないものが売られている。
もろこしぼうき。
普通、種をとってから使うものだと思うけれど、籾が残ったまま結束してある。
搾油機かな。
午前中に見た時の鐘についていた古い宝珠。
これによれば、時の鐘は平成元年(1989)に修復されたようだ。
1階には他に武州鉄道のパネル展示がある。
続いて2階へ。
手すりが研ぎ出し仕上げの手のかかるデザインいなっている。外観は地味な建物だけど実際は無駄なくらいに丁寧な仕事がしてあるのだ。
平成以降の庁舎建築なんて、ロードサイドのファストファッションの店舗みたいな安っすい建物が多いから、こんな仕事にお目にかかることはない。
2階は張り子人形に関する展示室になっている。
ここの展示は特徴的で面白かった。
張り子の木型。
五関の張り子。
昭和40年代まで浦和市西部で作られていたという。
三番叟、樽背負い、だるま背負いの3点。
だるま背負いって、、、どういう状況? 面白すぎる。
春日部張り子の「馬乗り鎮台車」、越谷の船渡張り子の「首振りかさ男」、「越後獅子」。
埼玉の南東部では首振りの張り子が作られ、舟運で江戸に運ばれて販売されていた。
屋上へ登る階段は封鎖されていて、雛人形の展示場になっていた。
中段に裃雛がある。
いずれも木綿の衣装で、山繭縮緬は使われていないようだ。
ところで、岩槻郷土資料館のとなりに、(有)正能屋商店というお店のしもた屋がある。
このお店の通り土間にレールがあった。
かつて商売が盛んなころ、奥の倉庫への荷物の出し入れにトロッコが使われていたのだろう。
こうしたレールはウナギの寝床地割りの場所で、ごくたまに見かけることがある。
お店の正面は改装されているけれど、2階の窓を見ると2重構造みたいな造りがうっすらと見えている。
実は明治くらいの町屋を張りぼてで覆った看板建築なんじゃないだろうか。
(2023年02月26日訪問)