阿波葉の梁山泊ともいえる
初めて訪れたのは2008年6月30日。
施設は写真の左側から主屋、納屋、倉庫、蒸屋、乾燥室となっている。
タバコ畑は全部で20アールあり、主屋の横の圃場と、段丘の上の斜面の圃場の2箇所に分かれている。
写真は敷地を北側から見たところだ。高尾家の敷地は北向きの急斜面で、これは主屋の裏側を見ているる状態だ。主屋の上側には上段の畑へ登る道が見えているが徒歩でしか登れない。
この場所をGoogleMapsで見ると道路が行き止りのように描かれているが、実際は渕名の標高300m付近を周回する車道が通っていて、通り抜けることができる場所だ。
ただ、その周回道路はかなり狭いので、初見で進入するにはかなりの度胸が必要。
ストリートビューも途中で引き返している。
ストリートビューの撮影ってプロパーか嘱託か知らないけど、地域ごとに仕事の質がまちまちで、徳島県はどちらかというと撮影者の根性がないと思う。人が住んでいて通り抜けられる舗装道路が網羅されていないし、田んぼの中の道などの家がない場所が省略されがち。
次に訪れたのは2009年7月19日。
高尾家の敷地へは周回道路から降りていく形になっている。そして高尾家の敷地から下方は急斜面の谷と森になっている。
こういう、家から下方に行き先がない敷地って私は大好物なのだ。
こちらは高尾家の蒸屋。
主屋から離れて建てられている。
火を使う建物だから主屋から離すというのは妥当なレイアウトだと思う。
そこからまた少し離れたところに乾燥室、いわゆるハウス。
家を訪ねたらおとうさんは畑にいると言われ、行ってみたがなかなか見つからない。
タバコが背より高くなっていて、人が隠れてしまうのだ。
ことしは阿波葉生産の最後の年。
春先から雨が少なく、タバコの生長が遅れている年だがとても立派に育っている。このときおとうさんはわき芽を摘む作業をしていた。
育てかた以外に、タバコには「オンキ(雄木?)」と呼ばれる特殊な個体があって、通常よりも生長が早く、葉が少ないという。この中央の株がその傾向のもの。確率はごくわずかで、数百株に1株程度の割り合いで出現する。オンキかどうかは定植して1ヶ月くらいするとわかる。
ほかに、花卉作物にあるような
すでに下葉の収穫が進んでいる。
これは昨日収穫した葉。
畑で黄変が始まった葉だけを収穫するアカバ取りだ。
高尾家は北向きの斜面にあるのに、玄関や座敷のは南側だから、家の前はすぐ斜面になっている。いま見えているのが屋敷の正面なのだ。
その屋敷と斜面のわずかな平地も干し場にしている。もしかすると風通しが悪い場所をあえて発酵に使っているのかもしれない。
主屋は茅葺きにトタンを被せた入母屋に、瓦屋根の下屋(
高尾家の玄関は大蓋の中に造られていて、式台があるかなり立派な玄関だ。
蒸屋を見せてもらう。
平側の壁面の2階相当の高さに2つの腰窓がある。
これは反対側も同じ。
妻側にも腰窓と、妻のケラバの直下に小さな換気窓。
また1階相当のところにも小さな地窓があった。
蒸屋を建てたのは昭和40年ごろだという。だとすれば渕名でタバコの生産を拡大した時代だ。
(ただしおとうさんの記憶違いの可能性もある)
蒸屋の内部。
囲炉裏があるがいまは塞いでいる。
その床板をめくってくれた。
まだ囲炉裏が残っている。
薪があることから、まだ使うことがあるのかもしれない。
蒸屋は雨天時の黄変と、褐変後の収納庫として使っているそうだ。いまはまだ葉の収穫量が少ないので、野外の干し場だけで作業をしている。
本当は野外で黄変するのではなく、ナマ葉は蒸屋に4~5日入れては取り出していた時代のほうが品質がよかったらしいが、あまりにも手間なので、いまはなるべく野外の干し場で進めていくという。
屋根裏はなく、化粧屋根裏になっている。
吊り木は6段。
2階の窓は外部から開け閉めするそうだ。
中間の高さに太い梁があり、その上に板が載せてある。おそらく上段に吊るときに使う足場だろう。
蒸屋の前も干し場になっている。
ここはハウスからの出し入れや、最終的な蒸屋への格納時の導線がよい。
これはきょう収穫したアカハ。
乾きすぎないようにビニールが被せてある。
「阿波葉やゆうのは、腐らすな、乾かすなって、ごく自然に乾かないかんけんな」
あとは台風が来なければいい。
吊り木は単管でとてもしっかりした造り。
2009年8月16日に再訪。
8月9日~9日には徳島県に台風が接近し、大雨が続いた。高尾家では夜通し経験したことがないような雷が続いたというが、雨だけで風がほとんど吹かなかったのでタバコには大きな被害はでなかったという。
他の農家では台風の被害が出て、急いですべての葉をアオバ取りしたお宅もあったが、高尾家ではだいぶ様子が違う。
今年はそもそも春先の小雨で、スケジュールが本来より10日くらい遅れていたという。平均的な年ならば8月20日ごろにはすべての葉の収穫が終るのだが、今年は16日でこの調子なので8月中には終らないだろう。
昨年は8月9日にはすべて収穫していたというので、本当に天候任せなのだ。
蒸屋の中を見せていただいた。
青いタバコの葉は甘いような匂いがするが、褐変した葉はもう紙巻きタバコそのものという匂いに変わっていた。
上の段は見えないが、中間の梁が葉の中に埋もれていることからすでに3段は吊ってあるのだろう。
奥側は4段目を吊り始めている。
2階の窓を開けるところを見せてくれた。
窓の中にはタバコの葉がびっしり。
蒸屋にナマ葉を入れていた時代は観察窓にもなっていたのだろう。
蒸屋の前の干し場はだいぶ仕上がりつつある。
いちばんいい仕上がりの葉を選んでもらった。
葉の種類は合葉だから、一番いい部位だ。
美しい阿波葉の枇杷色。
ハウスの中にはアオバ取りした葉が少し入っている。
ハウスは地窓と天窓の位置がわかりやすい。
これは昨日取った葉だ。ハウスの中で黄変させて、軽くなったら外の干し場に出す。
夕方になって過ごしやすくなったので、アカバの収穫をすることになった。
長雨や台風の影響で畑には少し病気の葉が出ている。
アカバ取りとは、畑の中で色づいた葉だけを掻いていく取り方。
このとき、たとえば本葉と上葉といった部位の違いがあっても、アカバになっていればまとめて取っていく。
部位の違う葉は連干しのときにも同じ縄に編み込んでいき、最終的には「調理」という工程で品質別、部位別に分け直すのだそうだ。
高尾家では畑から運び出す葉は手で抱えて出すという。
葉のずっしりとした重みにも満足そうなおかあさん。
いま高尾家は老夫婦2人で20アールの阿波葉を作っている。やや多めの作付けだ。阿波葉は作業期間が長いので、人に手伝いを頼んで一気に終らせるようなことができない。傾斜地では2人だけでやるには15アールくらいが適切で、20アールは天候が順調ならできるという面積なのだという。
この葉に空いている穴はアカバになってから雨に当たると出来てしまうという。
こちらは幹が腐る空洞病。
数は多くなかった。
掻き取った跡からはわき芽が出るので、これは摘んでいいく。同じ箇所で3回くらい摘むとそれ以上は出ないそうだ。
葉が青いうちに収穫するアオバ取りでは「
といっても、私が見てもどのくらいの白さがその状態なのかはっきりとはわからない。
裏返してみると判断しやすいらしい。
これはまだ「
阿波葉がまだ続いていたら、こうした実地的なことをもっと覚えられただろうに。
(2008年06月30日訪問)