鮎喰川のモクズガニ漁

カニモジの設置を見せてもらった。

(徳島県神山町神領本小野)

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秋の彼岸。鮎喰川の中流では田畑のあぜを彼岸花が彩る季節だ。

この日私は沈下橋(五味橋)や索道の写真を撮りに神山町に来ていた。

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そのときたまたまこの沈下橋を利用している農家、相原に会った。橋の対岸に畑があるのだ。

聞くと、かつては養蚕をやっていて対岸に桑畑があったということで話が弾み、しばらくその養蚕の話をしているうちに夕方になってしまった。

するとお父さんが、夕方になったのでカニモジを仕掛けに行くという。カニモジとはモクズガニを捕る仕掛けだ。その様子を見せてもらえることになった。

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鮎喰川の中流域ではところどこにカニを捕る「セキ」という仕掛けを見かける。

モクズガニは海で生まれ、生長すると川を遡上する。川で数年を過ごし、親になると再び海に下って産卵し、一生を終える。このあたりではケガニと呼んでいる。

セキは川を下る親ガニを捕獲する一種の定置網だ。お盆すぎて初めて川が増水する日を境に、川を下るカニが捕れ出すという。11月になり川の水量が少なくなると漁は終わる。

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セキは上流に向かって広がったV字型の障害物で、川を下ろうとするカニを中心部に集め、そこにカニモジという罠に誘い込む。

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これがカニモジ。

入口から奥に狭まっていてカエシになっているので、一度入ったカニは外に出ることはできない。

カニウケと呼ぶ地域もある。(うけ)とはカエシのついた漁具で、ウナギを捕る道具がよく知られる。このあたりでは、ウナギを捕る筌もモジと呼んでいる。

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そのほか、モクズガニを捕るための仕組みには「カニカゴ」というものもある。これは餌を入れて淵に沈めておく罠だ。カニカゴは徳島では釣具店では1つ1000円程度販売されている。

カニだけでなく、ウナギ、ナマズ、ギギ、テナガエビなども入る。ウソかホントか、園瀬川ではかつてはオオサンショウウオが入ったという。

相原さんは現在はカニカゴ漁はせず、セキ専門だ。

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こちらが相原さんのセキ。

セキは川がカーブする内側の流れが弱い部分に設置するのがよい。そうした場所を「ミズウラ」という。また、偶然かどうかわからないが、この地域では川の南岸でカニが捕れやすいそうだ。

近くに道路の街路灯があったりすると入りが悪くなる。「カニはお月さんがあったら入らんというくらいじゃけん」と相原さんはいう。

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カニモジは日暮れごろ仕掛けて翌朝回収する。相原さんの経験では、22時ごろまでに夜行性の生物がよく活動し、カニが実際に入るのは24時ごろまでではないかという。

水が澄んでいるときは大きな親ガニがよく入り、水が濁っているときは小さなカニが入る傾向があるとのこと。

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このあたり、鮎喰川の中流域は特に大きなカニが多いという。河口からは30km離れている。私が住む名東地区のあたりは枯れ川になるためカニが少なく、広野地区より下流のカニはあまり美味しくないそうだ。

逆に上流は水温が低いためカニが捕れない。鮎喰川では川又地区より上流にはカニはいないのではないかと相原さんは考えている。

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セキは木の杭と金網で作る。金網には木の枝などを付けて、自然の障害物だとカモフラージュしておく。金網だけだとカニはセキをよじ登って乗り越えてしまうという。

このセキでは近くにある桑の枝を使ってカモフラージュしていた。

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カニウケの設置が完了。

このあと、一度相原さんの自宅に戻ってカニを食べさせてもらえることになったが、カニを茹でるのに時間がかかるため、そのあいだにもう1ヶ所あるセキに行くことになった。

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こちらがもう一つのセキ。

先ほどのセキに比べると川幅が狭く水量の多い場所にある。

セキに付ける木は篠竹を使っている。

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先行谷の深い谷にはもう日が落ちて、涼しい川風と水の音だけが聞こえる鮎喰川の河原。

初めて見るのに、まるで遠い昔から知っているような、ふるさとへのノスタルジアを呼び起こす光景。まるで美しい幻想を見ているような体験だった。

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ひとつのカニウケには多いときでは一晩で100匹のカニが入ることもあるという。最も入ったときは、15kgのカニが入ったこともある。川をよく知る相原さんも、そんなにたくさんのカニがどこにいるのか不思議に感じることもあるそうだ。

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相原さんの自宅には水タンクを利用した生け簀があり、モクズガニやウナギなどを生かしておくことができる。

水は山水をひいて掛け流しにして、エアレーションも入れている。水質がよくないとカニはすぐに死んでしまうという。こうした環境があってこそできるカニ漁なのだ。

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モクズガニを食べるときは、捕ってきてすぐに食べると苦味があって美味しくない。10~15日くらい生け簀で生かし、飢えてきたところで魚のアラなどを与えて食べさせる。そのあと調理すると一番味がよくなるという。

カボチャも与えると美味しくなると聞いて入れているが、エアレーションで水流があるせいかカボチャは食べにくいらしい。

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生け簀の中にはたくさんのカニがいた。相原家では正月まで生かしておく。

自分ではそんなにたくさんカニを食べないが、知人や私のような訪問客に食べさせたり、都会に出ていった子どもや孫に茹でガニを送るのが楽しみなのだという。

特に大阪にいる子が大阪で料理屋をしているので喜ばれているとか。

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カニだけでなく、アカザ、ギギ、ウナギなども捕れるのでそれも食卓に上る。ギギは淡泊で特に美味しいという。相原さんはカニのほかにアユの投網もする。

このあたりでは「ウロコのない魚は冬食べぇ、ウロコのある魚は夏食べぇ」といって、ギギなどは正月ごろに一番美味しくなる。

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カニは塩ゆでにする。40分茹でて10分おく。

水から茹でないとカニがバラバラになってしまう。

相原家はカニの調理場は主屋とは別で、鍋や食器はすべてこの場所だけで使う。肺吸虫という寄生虫による事故を防ぐためだ。そいうい話を聞くと安心してご馳走になれる。

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ゆで上がったモクズガニ。

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主に食べるのは蟹味噌で、足などは細かいので食べるのが大変だが美味しい。川でこんなご馳走が捕れるというのは驚くべきことだ。

特に蟹味噌が絶品で、クリームチーズのような濃厚な味がする。オスとメスではメスのほうが味が濃いという。オスが白子をもっている場合はお酒を入れて飲む。

徳島なのでスダチも切って出してくれたが、スダチを搾るよりも塩ゆでのまま食べたほうが美味しいと思った。

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ほかに食べ方としては、身を掘り出して練り物を作ったり、炊き込みご飯に入れたりもする人もいるそうだ。

蟹味噌は味噌と柚子を入れて焼くという食べ方もあるとのこと。

お土産も持たせてくれた。

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お土産にもらったカニのうち一番大きかったもの。甲羅の大きさが10cmくらいはある。

相原さん、カニ漁の様子を見せてくださったうえ、お土産までいただき、ありがとうございました。

(2008年09月23日訪問)

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四国大学新あわ学研究所 (編集)

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