国道439号線は四国山地を横断する秘境国道だが、部分的には拡張工事が進んで快適になっている。だが旧喜多家のある地域は峡谷で道路の拡幅の余地がなく、谷の対岸にトンネルでバイパスが作られた。
そのため旧道は大型車が離合できないような道のまま残されている。その道を通っていると、田舎の商店の私設アーケードのような不思議な設備がある。これは常設の索道だ。
対岸に発電所があり、そこへ荷物を運び入れる索道なのである。
発電所は祖谷発電所といい、大正12年に発電を始めたという歴史ある発電所である。索道は現在も使用されていると思われる。
形式は複線往復式で、曳索はエンドレスライン、搬器には綱車があり荷物を上げ下げできる。現在の構成を見ると、フックには荷が掛かっておらず綱車の両端にハンモック状のネットがつけてある。木箱や段ボールなどの荷姿の資材を運ぶのだろう。
最大荷重は2トンとなっている。5ナンバーの普通乗用車を楽々運べる能力がある。日用品ではなく、発電所で使う機械や建材を運ぶのだろう。
これまで紹介してきた索道の搬器に比べると、造りが頑強であり滑車も大型だ。
傾斜の下側に曳索や荷揚索のガイドがついている。
このアーケードみたいな屋根は、おそらく旧道を通る大型車輌が架線に接触しないように造られたガードではないかと思う。
荷積みはアーケードの下の路上でするのだろう。重量物はトラックの荷台から直接吊り上げたかもしれない。
不思議なのはアーケードの桁にレールがあって、梁が動くようになっていることだ。もしかしたら以前は幌屋根で開閉できたのか。
もっとも主索は梁よりも上にあるので、搬器を引き寄せるときには屋根を全開する必要があり、雨の日の荷積みに対応しているわけでもない。謎である。
機械室のところに登ってみた。
曳索は90度左側のウインチに接続されている。
写真左隅に見えている滑車は屋根の開閉用だ。
林業や工事現場の索道は仮設だからいつでも見学できるわけではない。だがこの索道は常設であり公道から見えるので、徳島県内で索道を観察するのにはお勧めの物件といえるだろう。
(2010年08月02日訪問)