モクズガニ漁を取材した
雨の五味橋の写真を撮っていたら、その手前に架線があることに気づいた。(矢印部分)
相原さんにそのことを訊ねたら「トバシ」だという。林業で伐採した木を運び出すのに使われる原始的な索道である。
先柱側はなんと道路のガードレールに結びつけてある。おそらく工事か何かで一時的に使っているだけなのだろう。
構造的にはケーブルは主索しかなく、主索の傾斜を利用して荷物を滑り降ろすというものだ。
「むかし山はこればっかりだった」そうだ。
相原さんに見せてもらった滑車。こうした滑車を主索に掛けて荷物を吊ったのだという。
「チキリ」と呼んでいたそうだ。
チキリは上から下へ滑り降ろしたあとは主索から外して、それを人力でまた山の上に運んだ。そのため架線から外せるような構造になっていた。
ただこの滑車は大型のもので、トバシで使っていたのはもっと簡素で軽量のものだったという。古い時代には木の枝の股になったところを滑車の代わりに引っ掛けていた時代もあるという。
ひとつの現場にはチキリが30~50個くらいあって、それを束ねて担ぎ上げた。この写真のような大型の滑車ではとても30個も担げないだろう。
滑車は重力だけで滑り降りるから、受け取り側ではスギの枝などを積み上げてクッションとして貨物を受け止めていた。
滑車は単純なものだったので、強風などで途中で脱索して引っかかってしまうと、人間が滑車に乗ってその場所まで行って直さなければならず危険だったそうだ。
架線は6番線(直径約5mm)を使うのが普通で、現代の索道と違って一人でも設置できるという便利さもあった。
写真は主索。左側が高くなっていて右側へ向かって荷物を滑らせる。
神山町でトバシがたくさん使われたのは40~50年くらい前。ちょうどそのころ薪だけの暮らしからプロパンガスを使う暮らしが始まり、トバシが使われなくなったということだった。
ということは個人の家で山から薪を降ろすのによく使われていたのだろうか。
(2008年10月05日訪問)