口山のタバコ農家③

口山集落で一番景色のいい場所にあるタバコ農家。

(徳島県美馬市穴吹町口山渕名)

口山に初めて来たとき見通しが利いて景色のよい場所だなぁと強い印象を受けた。そのころはまだここが葉タバコの村だとは知らなくて、辻堂や神社などを廻っていた途中で通ったのだが、風景の美しさに魅かれ民家の写真を何枚か撮っていた。

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2度目に訪れたのは2007年5月26日。その中でも特に印象的な場所は小字「渕名(ふちみょう)」の農家が点在する風景だ。

のちにこの白い寄棟屋根の家を訪問することになるとは、このときはまったく思っていなかった。

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3度目に訪れたのは2008年5月11日。

いま写真を見ると、南側の圃場にシルバーのマルチが敷いてあることに気がつく。阿波葉の苗が定植された直後の様子なのだ。

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4度目に訪れたのは2008年6月30日。

このときはもう、こちらが平田家というお宅で阿波葉農家だということを教えられての訪問である。

主屋は草屋根にトタンをかぶせた寄棟造りで、その下に瓦葺きのひさしを巡らせたいわゆる「四方蓋造り」の民家。徳島の平野部の古民家を代表する形式だが、口山ではひさしを回していないシンプルな寄棟の民家のほうが多い。

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すでに下葉の収穫が始まっていた。

干し場の柱にかけてあるシートが温蒸パックといわれる資材だろうか。屋外の干し場で過乾燥にならないようにかぶせるものだ。たぶん葉タバコ専用の資材ではないかと思う。

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敷地内は干し場の柱だらけ。主屋の近くの葉はだいぶ黄変が進んでいた。

日光の下での阿波葉の黄色は鮮やかできれいだ。

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阿波葉の収穫方法は、緑色の葉のときに掻き取る「アオバ取り」と、葉が幹についたまま黄色くなってきたところで掻き取る「アカバ取り」がある。

たぶん、平田家は現在アカバ取りでの収穫中。

なんでそう思うのかというと、、、

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奥様がちょうど連縄に葉を編み込んでいるところが見られたからだ。

これを見ると、収穫してきた葉がすでに色づいている。

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連縄は2本が一組になっていて、撚りが掛かっている。そこを左手でこじ開けて、右手で葉脈を差し込んでいくのだ。

葉脈の先端は縄から2cmくらい出た状態にしていた。

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畑はシルバーマルチで、イボ竹を立てて誘引リボンで株を支えてある。

丁寧だし、たぶん比較的新しいやり方なのではないかと思う。似たようなやり方は熊本の農家でも見た。

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平田家の敷地は標高500m近くあり、渕名集落でも最も高い一角だ。北東側が開けていて、遠くには吉野川の水面が輝いて見えている。

山村だけれど閉鎖的な感じはなく、明るく、開放的な場所だ。

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5度目に訪れたのは、2009年8月16日。

この直前には台風9号の接近で徳島県下では記録的な降水量となった。

訪れてみると葉の収穫はだいぶ進んでいた。

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家の前は葉でいっぱいになっている。

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でも畑の様子がおかしい。

幹が黒くなっているのだ。

空洞病といって、幹や葉脈が腐る病気なのだという。

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今年はカラ梅雨だったが、8月に入って天候不順で雨の日が続いた。それまで順調だったタバコが8月の雨続きで病気が発生したのだという。

この圃場は周囲が開けているため台風の風雨がモロに影響したのかもしれない。

こうなると残った葉が厚くなることもむずかしいので、ダメになる前に残りの葉をすべて収穫するしかない。もちろん収量は減ってしまう。

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長雨はタバコ農家には悩ましい天候だ。

芯止めしたり葉を掻いた傷口に雨が当たると、タバコはそこから腐って病気になるので雨の中での作業はできないのだ。

天気予報を見ながらその日の収穫量を決めていくが、不規則な天候だったため収穫も遅れた。

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平田さんは50年以上阿波葉を育ててきた。長雨の年には作柄が悪くなることもあったが、今年ほど被害が出たのは初めてだという。

葉タバコは農家の意向で増反できない特殊な作物なので、災害時の収入の補償はある。少し前にJTに被災申請書を提出したので、調査員が来ることになっている。はじめ、私がその調査員なのかと間違われた・・・。

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乾燥室の中を見せてもらった。

上段は褐変の終った乾いた葉。下段はアオハのまま収穫した葉の発酵工程だった。

波板の乾燥室は外壁が半透明で好天の日には温度が上がるので、こうしてムシロを吊って日射を避けるのだな。

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上段の葉は被害が発生する前に作った葉できれいに仕上がりつつあった。

(2008年06月30日訪問)

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宮澤 伊織 (著), shirakaba (イラスト)
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