仏塔というのは、境内でまざまざと眺めるのではなくて、遠景から眺めるときのほうが心が踊るものだと言うことをこれまでにも何度か書いたが、ここ無量寺の大雁塔を東側からみた風景には、思わず息を飲んでしまう。決して珍奇に面白がっているのではなく、アジアの仏教徒としての血が、遠い長安、そしてはるかな天竺への想いを馳せる風景なのである。
ごみごみした家並みの西に本堂の大屋根と大雁塔のシルエットが見えるこの風景は、私がいままでに見た塔のある風景のなかでも、最も好きなもののひとつである。
大雁塔とは中国西安市にあるレンガ造の仏塔。玄奘三蔵がインドから持ち帰った仏典を収めるために作らせた著名な仏塔である。
本物の大雁塔は7層10階。内部に木造の螺旋階段があり入場料を払って登楼できるらしいが、残念ながらこの寺の塔は参拝客は入れない。
大きさは本物の1/3ほどだが、姿はよく再現されている。
大雁塔のある側に広い駐車場があり、そこから仲見世が何軒か続いている。
ガン封じの寺として観光客も多い。
蒲郡市は東に弘法大師像や大秘殿、中央に竹島、西に無量寺と、渥美湾を囲むようにスポットが点在するバランスのよい観光都市といえよう。
寺の本来の参道は南側にあり桜並木が続いているが、現在は駐車場の位置の関係から、こちら側から参詣する参詣客はまったくいない。
山門は薬医門。
本堂は新しい建物だが、本瓦葺きの立派な建築だ。
本堂の左手には玄関、蔵(宝物館)、大黒恵恵比寿天堂がある。
大黒恵比寿天堂の左側には縁結び堂。
その左側には身代わり不動の滝という滝が作られてある。
本堂の右側にはがん封じ堂(写真)、地蔵堂。境内は広くないが、堂は多い。
ガン封じ堂の周囲にはガン封じの絵馬が掛けられている。
絵馬には人形が描かれており、がんを直して欲しい場所を黒く塗るようになっている。びっしりと掛けられた絵馬をみると、この寺の信仰にすがって参詣する人々が多いことがうかがえ知れる。
さて、ここまで紹介したでもこの寺は充分にユニークなのだが、それ以上に楽しませてくれるのは「千仏洞」という戒壇めぐりである。
本堂に上がって、左のほうへ行くとあるのだが、拝観料は無料。この種の戒壇巡りで無料というのはほかにはないのではないだろうか。
左側の暗い通路が千仏洞への入口である。
通路を区切る手すりや、狭い通路の奥にともる頼りなさ気な灯籠の光が巡礼空間好きにはたまらない。 「今日まで生きてて良かった~」 と思う一瞬である。
両側は磨崖仏になっていて、通路は折れ曲がりながら続く。千仏洞は厳密には地下ではないのだが、通路の壁面は岩肌状に仕上げられ、窓もないためほぼ地下霊場と言っていいような雰囲気になっている。
この作り方は昨日見た大秘殿とよく似ている。このように似た手法の霊場が同じ市にあるのは偶然ではあるまい。
途中からは磨崖仏にロウソクが献灯され、荘厳な雰囲気。
出口付近にはやや広い空間があり、香の煙で煙っていた。
また境内の各所にはレンガ造りのミニ八十八ヶ所霊場がある。それも単純に一列に並んでいるタイプではなく、不規則に配置されている。
本堂の裏のほうにはほとんど行く人とていないが、このミニ霊場だけでも一見に値するものだ。
(2001年10月08日訪問)