中山のタバコ農家

個人で乾燥施設を所有する黄色種農家。

(徳島県那賀町中山日の浦)

写真

きょうはあまり目的もなく阿南の(あこめ)海岸へ来てみた。徳島は人口に対して海水浴場がありすぎるくらいあるので、中にはまったく人が来ないような海岸がある。そこは一人でぼーっとするのには最適な場所なのだ。

そのあと鷲敷(わじき)のほうに行ってみることにした。鷲敷方面へ行くときにはいつも那賀川の先行谷を通るのだが、きょうは衵海岸からの移動なので珍しく国道を通った。

写真

国道を走っていたらタバコ畑が見えた。県南なので第1黄色種かな。以前ローラー滑り台を見た場所の近くだ。

8箇所の圃場で全体で1ヘクタールのタバコ畑がある。この畑をやっている小川さんに話を聞くことができた。おとうさんは兵隊から戻ってからタバコを始めたという。那賀町には全盛期に220軒のタバコ農家があったが今は6軒、鷲敷地区のこの谷には2軒のタバコ農家が残るだけになった。

写真

在来種の丸っこい葉を見慣れていたので、やけに葉が細く見えてしまう。

今年は成育が悪く株が小さいという。3月から4月ごろ雨が続いたし気温も例年にくらべ低かったのが原因だろうか。

他のタバコ農家も悪く、災害申請を考えている農家が出ている模様。申請が通れば例年の売上げの8割まで補填される。

写真

小川家はかつてはタケノコやミカンもやったが、どれも衰退したため撤退した。

タバコは専売で買上げ価格が決まっていてるので計画が立つので続いた。

タバコも戦後に転作が奨励されたことがあり、廃作すると補助金が出たので山を買って炭焼きをした人もいたという。

写真

許可証を見ると、9.1アールに1,887本植えてあることがわかる。阿波葉は10アールで4,000本程度植えていたので、ずいぶん植えかたが違う。阿波葉農家が「黄色種をやるには土地がいる」と言っていたのはこういうことなのだ。

写真

すでに下葉の収穫が終っている。

畑全体が黄色く輝いて見える。以前に見た第2黄色種よりも黄色が強く感じる。どうも今年の不作が関係しているようだ。本来はここまで黄色くはならないらしい。

収穫方法は下から黄変した葉を取ってゆき、残り6~7枚になったら一斉に取る。小川家では天葉、天下など昔の分けかたで7種類に分別しているそうだ。葉の乾燥は組合の共同乾燥場を使うが、自宅にも乾燥機があり少量は乾燥できる。

きょうは7月4日だが、すべての収穫が7月中に終わる。この圃場は二毛作でコメの後作をするという。8月からの田植えだ。

このあたりでコメを後作で作ろうと思えば、田植えは1日でも早ければ収量が増えるそうだ。いまは春の田植えと同じように育苗箱に苗を作り田植え機で植えるが、むかしは後作のコメの苗は前作の水田の畝間に遅れて田植えしてある程度育ててから引き抜いて後作の圃場に手植えしていた。そうしたほうが収量が多くなるからだ。

大きく育った苗を植えるには、道路から植える人に向かって苗の束を放り投げた。高く投げすぎて電線に引っかかってしまったことがあったという。

いま後作でコメを作るのは、圃場を湛水して連作障害を防ぐためでもあるそうだ。

写真

ことしはタバコが不良なので少しでもいいところの写真を撮ってよと山ぎわの畑まで行く。山ぎわといっても平坦で水田である。

阿波葉の農家を多く見てきたが圃場が不定形だったり、急傾斜だったり、1戸で20~30アールも栽培したら大変だ。全盛期でも50~60アール作れば一目置かれる存在だった。

黄色種は土地改良されたところで育てていて、畝も長く作業効率はいい。那賀町で一番大きな農家は3.5ヘクタールを生産している。

写真

黄色種もベーハ小屋を使い、連縄に編み込んで乾燥していたときは丁寧だったから20アールくらいしかできなかったという。

芯止めした後にたくさんのわき芽が出て阿波葉農家ではそのわき芽掻きも大変な仕事だったが、黄色種では農薬でわき芽を止める。

写真

1本だけ花が咲いていた。不時発蕾というやつか?

可愛らしいタバコの花。

写真

小川家の設備を見せてもらう。

ベーハ小屋が作業小屋の一部に取り込まれた造り。でも越屋根は取り除いたようだ。

写真

ベーハ小屋の中はいまは倉庫になっているが、見せてもらえた。

名前は「乾燥室」と呼んでいた。

写真

吊り木は6段。

越屋根の部分が抜けてない! つまり天井のようなものがある。

越屋根を取ったときにしたフタなのか? それてももしかしてこれが折衷式のベーハ小屋?

写真

このお宅では乾燥機2台を個人で持っている。

木原製作所、キャビネットバルク乾燥機。

写真

乾燥機の内部。

葉を2段に掛けられる。

写真

これは葉を挟む巨大なバインダー。針のような部分で上下に串刺しにするのだ。

1基で15kgくらいの葉を挟むという。

阿波葉では連縄に1枚1枚挟み込んでいたが、黄色種ではこうした部分がかなり効率化されている。

写真

乾燥機のコントロールパネル。カッコイイ!!!

無駄に情報が多く、昭和の電子工作キットみたい。

写真

すでに一部の乾燥が終わっているというので見せてもらえることになった。

独自の保存室がある。

写真

内部は防湿、防虫の特殊なシートで覆われている。

こういうところも阿波葉とはえらい違いだ。

梱包資材も阿波葉とは違って布製だ。

黄色種は10アールで300kgくらいの収穫があるので、小川家では3トンの葉がここに収まるのか。

写真

これはすべて下葉。

暗いところでストロボを使って撮影しているから色味が正確ではないけれど、葉が黄色に輝いている。

黄色が濃いものが高品質。株の下のほうの葉は特に黄色いそうだ。

黄色種という名にふさわしい美しさだった。

(2010年06月12日訪問)

裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ (ハヤカワ文庫JA)

文庫 – 2018/11/20
宮澤 伊織 (著), shirakaba (イラスト)
――そこには常に、怪異たちと閏間冴月の影もあって――そしてふたりを襲う、最大の脅威〈ウルミルナ〉とは? 表に出せない感情同士が激突する女子たちのサバイバル、第3巻!

amazon.co.jp

葉たばこ専用作業車AP-1が主人公たちの乗り物として登場します。表紙絵にも描かれてますね。