妻沼聖天・境内

観光寺院の典型。境内は広く奇妙な門がある。

(埼玉県熊谷市妻沼)

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2015年12月30日。島根で暮している弟が正月休みで帰省した。めったに休みが合うこともないから、家族でどこかに出かけようということになった。

2012年に国宝に指定された妻沼聖天(めぬましょうてん)歓喜院を見たいという弟の希望で、老母を含め家族4人、妻沼へ向かうことにした。もちろん母も弟も私も妻沼聖天は過去に参詣したことがあるが、8年かけた修復で社殿が極彩色建築に改装されたというので改めて訪れることにしたのだ。

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妻沼は熊谷市の北西7kmほどのところにある典型的な門前町だ。熊谷や太田あたりからの日帰りの行楽先として江戸時代から繁栄したのだろうという雰囲気が色濃く感じられる。

門の中に青果店があったりする。もともと境内の露天商が果物を売ってたみたいなのが始まりかもしれないよね。

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伽藍配置図は鳥瞰でかなり正確。しかも逆遠近法みたいな名所図会スタイルで、これ、かなりわかってる人が描いたよね!

些細な伽藍にも名前を記してあるのが、私のような「寺の建物全部見る!」っていうマニアにはうれしい仕様。

この図のとおりかなり建物が多いので、境内、本殿、本坊というふうに3ページに分けて紹介していこうと思う。

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東面した境内に入ると、まずあるのが総門の二天門。固有名詞があり「貴惣門」ともいう。たぶん「奇想門」という意味であろう。国重文。

構造的には正面からは二重門に見えるが、これは二重門とか楼門というのとは違う。かなり奇妙な門であり、ちょっと他ではすぐに思い浮かぶ類型がない。

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横から見ると、背の高い八脚門に庇が付いたような構造をしていることがわかる。あえて、当サイトの分類に当てはめると越屋根門に近い。

文化財の案内によれば、設計者は周防岩国の長谷川重右衛門という人物だという。当サイトで越屋根門の類型としている禅昌寺が山口県にあるのはもしかして何かの関連性でもあるのか。

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八脚の内部は前側だけに祭神がいる二天門だ。

左側は工事中で見られなかった。

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右側は、持国天かな。

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斗栱部分はごちゃごちゃした彫物で満たされている。

個人的には彫物ってあまり興味がないのだけれど、妻沼聖天の見どころはこの彫物なのである。

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総門の前にあった寄進者の名前が彫られた石碑。昭和6年に建てられているが、溶岩で洞窟みたいな構造が作られているのが気になってしまう。

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似たようなものを深谷市の生品神社でも見ている。

これ思い付きの遊びじゃなくて、何か様式的なものなのか。

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総門を過ぎると、100mほどの石畳の参道が続く。

きょうは30日だから、初詣客相手の露店の設営準備が始まっていた。

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参道の右側には仲見世の廃虚。

かつてこの商店街が営業できるくらい、平日でも参拝客で混み合った時代があったのだろう。なにせ、私が初めてこの寺に来たころには、熊谷から妻沼町まで鉄道があったくらいなのだ。いまは廃線になっているが。

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参道の途中には斎藤実盛の像がある。平安時代にこの地域を支配した武将だ。乗馬が稲に脚を取られたのが原因で討ち取られたため、死後怨霊となり、稲の害虫に変化したと言われる人物でもある。

左手に手鏡を持ち自分の姿を確認している姿は、最後の戦にあたって老いた姿で討ち取られるのを嫌い、白髪を黒く染めたという場面だ。

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参道を進むと中門の四脚門があり、左右は仲見世の料理屋になっている。

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山門の右側にはうなぎ屋。

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山門の右側には稲荷寿司専門店がある。

うなぎに寿司、いかにも観光寺院という店舗だが、うなぎも寿司も良心的な価格帯だ。

きょうはいなり寿司を土産に買った。

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いなり寿司店の並びはうどん屋などお店が並ぶ。

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中門の右側には護摩堂があり、ここでは自動車のお払いができる。

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中門はこのお寺の門のなかでは最も地味。

そもそも一般的な寺院では、建物は外から総門→山門→本堂と並ぶ。総門と山門のあいだにもう一つ門があるのは変わっている。

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中門を過ぎると、またまた奇妙な門が。

これ、なんて言ったらいいいの?

山門の五間三戸の十二脚門の仁王門???

まぁ京都御所にも同じような門があるんで、「十二脚門」って索引作るか。

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総門の前にあった石灯籠。

基壇が溶岩で出来ていて、登る階段がある。

もしかして超小型の富士塚的なものか。

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山門前の左側には水盤舎。

門が壮大なわりに水盤舎はこじんまりしている。

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山門を過ぎると進路を阻むように石舞台とされるものがある。

案内板によれば創建当初からあったもので、庭儀(ていぎ)法会を行なうための施設。

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石舞台の先に本堂がある。

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本堂は神社建築で、いわゆる権現造りになっている。

背後の石の間→本殿の彫刻が、最近修復で極彩色に彩色されたというのでそれを見に来たのだ。ただ、この部分の紹介は別ページにして、ここでは境内の他の建物を見ていこう。

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山門を入ってすぐのところにあるお百度カウンター。

上部は摩尼車になっていて、カウンターは側面にあるそろばん状のもの。ただ、そろばん玉が7個しかない。もしかして二進数で数えろってこと? 確かに127まで数えられるけど、かなりむずいよ?

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摩尼車の隣りには水行場という建物がある。

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水行というと滝行を思い浮かべるけれど、こちらは井戸から水を汲み上げてかぶるというもののようだ。

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滝行場の隣りは大師堂。

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大師堂の内部。

天井は折り上げ格天井で、造りとしては護摩堂かな。

内陣の右側にゾウとウマがいる。

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こちらがゾウ。

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こちらがウマ。

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大師堂の隣りには相撲の土俵があるが、なぜかバリケードで囲われていた。

初詣で勝手に登る人を防ぐ対策か。

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土俵の隣りには経蔵、末社の天満宮が並ぶ。

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天満宮の右側には末社アパートの五社明神と荒神社。

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山門を入って右側の様子。

寺務所、護符売場がある。

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寺務所と本堂は渡廊で結ばれている。

この渡廊の下が潜れるようになっていて、その先にも伽藍があるので見落とさないようにしよう。

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渡廊を潜るとまずあるのが鐘楼。

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新しい建物で、石の基壇があり、その上にさらに鐘楼が載っているという二段構えの建物。

梵鐘を渡廊の屋根より高くして鐘の音が通りやすくするための強引な造りだ。

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寺務所の裏手に中島にゾウを配した池がある。

案内板で「放生池」とされているのはこれか?

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寺務所の裏手は公園になっている。

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月着陸船をモチーフにしたと思われるジャングルジム。

これと同じものは徳島県で紹介している。一点モノじゃなく量産品なのだ。

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汽車型ジャングルジム。

これと同じものは当サイトではまだ見つかっていないが、これも量産品なのだろうな。

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ステージが気になる。

かなり本格的で、ちょっとしたコンサートや映画上映ができたのではないか。

遊具は他に滑り台、ジャングルジム、鉄棒、ブランコがあり、トラッドな児童公園としても充実している。

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公園の奥のほうには低い丘があり、その上に多宝塔が建っている。

この丘は自然地形で、自然堤防かもしれない。

多宝塔の前には三日月型の池があって、多宝塔へ行くには太鼓橋を渡る。

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関東地方では塔のある寺は少なくて、普通なら多宝塔があればかなり印象に残るのだけれど、妻沼聖天は奇抜な堂が多いので多宝塔の影が薄くなりがちだ。

私もこの記事を書くまで、多宝塔があったの忘れてた。

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さらに池の奥のほうにも何かがある。

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恵光童子かな?

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恵光童子の後ろには弁天社。

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このあたりには参拝客は誰も来ていない・・・。

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境内の一番奥には明王の滝という人工滝と洞窟がある。

洞窟の中には石造の不動明王が祀られていた。

(2015年12月30日訪問)

古建築の細部意匠

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